ARGOの「プラトレ」

通る企画書を作るために。プランニングのトレーニング

シニアって言うな!

20年以上も昔の話だ。その頃はまだ、auとかソフトバンク等のブランドも無く、携帯電話はビジネスマンと学生などヤングが使うものだった。

広告なども各エリア単位の地域会社が担当しており、中国エリアの場合は、大手2社と系列の代理店が仕事を分担していたが、営業が頑張ってくれたおかげで、初めて大型販促キャンペーンのコンペの仕事が入って来た。それまで取引が無かった代理店がコンペに参加できたのは極めて異例なことで、かなり思い切った切り口で提案しないとコンペに勝てないし、たとえ今回の仕事は獲れなくても、下手な提案をするとコンペに呼んでくださった担当者の顔を潰すことになると営業に言われて相当なプレッシャーがかかったのを覚えている。

ポイントは、ターゲット層をどこに拡大して行くかということに絞られると考えた。そして、ヒアリングの結果、先方は主婦やOLなどの女性層を取り込もうとしているらしいという事が分かった。おそらく、コンペで競合となる代理店は女性層を取り込むためのプランを立てて来る。こちらも当然その対策も立てたが、色々と調べて行くうちに、60歳以上のシニア層も「需要の核」になる可能性が高いと思えてきた。

らくらくホンが登場する随分前のことで、当時はシニア=老人=いつも家でテレビを見ているようなイメージが強く、携帯電話といった先端機器は年寄りには扱えないと言う先入観を持つ人が多かった。だが、パソコンなどのOA機器はすでに浸透していたし電子メールに慣れている人も多いはずだ。これからは旅行や趣味などで外を動き回るアクティブシニアが増え、携帯電話の需要も確実に増加すると確信した。

そこで『次のメインターゲットはシニア層だ』という提案にした。

どうやら先方には新鮮な提案だったようで、代理店最大手と2社が残り、役員出席の上での最終プレゼンで決着をつけることになった。プレゼンは非常に上手く行った。獲れた!とも思った。だが、最後の最後になって先方の社長がこう言った。「シニアと言うのは何歳以上の事かね?」「自分がシニア層に含まれることはわかってはいるが、シニアと言う言葉はあまり気分が良いもんじゃないね」

私も、還暦を控えた今だからこそよく理解できる。55歳以上はお得!と高田純次夏木マリが言っているイオンのGGのCMを見るたびに気分が悪くなる。自分にはまだ経験はないが、シルバーシートを譲られたら多分ショックを受けるだろう。若い頃はシニア層という言葉を平気で使っていたが、言われる立場に近付くと「シニア」という言葉が「年寄り」に聞こえてくる。評判が悪くて変わったが、高齢ドライバーがつけていた「枯葉マーク」を考えたのも、きっと若いデザイナーだ。

そのプレゼンは、ローカルとしては規模が大きい億単位のキャンペーンだったため「新規参入の代理店に全部任せるのは不安だ」と言う理由で負けてしまったが、目の付け所は良いと言う評価をもらい、キャンペーンの一部を担当させてもらった。そして次回からはコンペに呼ばれるようになり、何度かプレゼンに勝つ事もできるようになった。

やがてシニア堂は携帯電話の大きな需要層になり、私がプレゼンを担当した広告代理店にも仕事が来るようになったのだから、結果オーライと言うことだろうが、「シニア層」という言葉を使う時には十分以上に注意が必要だと思い知らされた。