ARGOの「プラトレ」

通る企画書を作るために。プランニングのトレーニング

「モノからコト」は正しいのか?

もう何年も前から言われていることだが、小売業界には「モノを売るのではなくコトを売れ」と言う考え方が、新しい売り方として根強く残っている。

私が東京に住んでいた30年以上前、当時、時代の最先端を走っていたMATSUYA GINZAが、婦人服売場、神式服売場と言った「モノ起点」の売場作りをやめて「ナチュラリスト向け」、「都会派向け」などライフスタイルに合わせた様々な商品を各フロアに分けた「コト消費」を重視した売場を作って話題になったことがあった。

業界では「これぞMATSUYAならではの新時代の売場だ」とマスコミでも大きく取り上げられたのだが、実際に買い物に行くと、これが実に面倒臭い。財布が欲しいと思って行っても、テイストごとに売場が各フロアに散らばっている。他店に無いようなデザインの財布もあるので楽しいって言えば楽しいのだけど、探す楽しさは1度で十分。各フロアを回った後に、気に入った財布が置いてある商品のフロアまで戻るのが大変だった。

コト消費で括った売場は見て歩くには面白い。ただ、普通の人は「モノ」を買いに行くのであって、小物に至るまで自分なりのライフスタイルを確立している人は少ないのではないだろうか。だからこそ今の松屋は、紳士服売場、婦人服売場と言った「モノ中心」のフロア構成に戻っているのだと思う。

 

私が関わっていた家電量販店でも「モノからコト」へと売場を変えようと今まで何度もチャレンジしてきた。二子玉川や広島駅前にできたエディオン蔦屋家電では、家電と書籍、雑貨などを組み合わせた新しい売場を展開している。最初に店に行った時は、従来の家電量販店の概念を覆す「見た事もない店舗」だと興奮した。しかし、ワクワク感も最初だけで、シェーバーが欲しいと思って店に行った時は売場にたどり着くまで随分と苦労した。やはり客の立場としては、お店には「モノ」を買いに行くことがほとんどなどで、理美容品売場とかテレビ売場と言った「モノ主体の売場」の方が購入したい商品を選ぶ時にはありがたい。

 

何か面白いものはないかとお店に遊びに行く時は「コト売場」は面白い。しかし購入したい時は「モノ売場」の方がはるかに探しやすいのも事実だ。「コト」で括った商品を提案することで新たな需要を掘り起こしたいと言う気持ちは理解できるが、現実を見ると、やはり「モノ中心」の商品選びは続き、結果として「もので括った売場作り」は続いて行くと考えている。