ARGOの「プラトレ」

通る企画書を作るために。プランニングのトレーニング

ロジカルトーキング

ひと頃「ロジカルシンキング」と言う考え方が流行っていたが、物事を論理だって考えて行くこの手法は、発想法のひとつとして有効だと考えている。アイデアに行き詰まった時に、客観的なデータや様々な理論を組み合わせながらプラモデルでも作るように論理を積み上げて企画を練って行く事もある。論理的に考えて行く事で頭の中が整理され、ひとつひとつの小さなアイデアが企画の中にピシッとはまって行く時は、この上ない快感を覚えるものだ。

ただしプランニングに関してはロジカルシンキングは万能ではない。よくアーティストが口にする言葉に「神が降りてきた」というものがあるが、企画に際しても神が降りてきたようにハッと良いアイデアが浮かぶ事がある。そう言う時の方が企画書の出来映えも良いし、プレゼンなどの結果も良い。芸術作品ならそのまま作品を仕上がれば良いのだろうが、企画書にする場合は、例え後付けであっても、その企画の良さを論理的に説明できなければ失格だと考えている。

優秀なデザイナーやコピーライターは、思い付きからアイデアを発展させた場合でも、何故この色や形を使ったのか、何故この言葉を使ったのかを論理的に語ってくれる。もしクリエイターがロジカルに説明する事が苦手な場合はプランナーの出番だ。セールやキャンペーン企画はもちろん、どんな企画でもそれなりの予算をかけて取り組むものは何人ものチェックを経て世に生み出される。単に「社長が気に入っているから」という場合も全く無いとは言えないが、普通は社内やクライアントに納得してもらえるだけの『理由付け』が必要だ。そこでロジカルトーキングが重要になる。

ロジカルがしっかりしていることで初めて社内の意識統一がはかれる。消費者から見れば「面白いCMだな」と言うひと言で片付けられるものでも、何故このタレントをキャスティングしたのか、何故こう言うセリフを言わせたのか〜プランナーならば明確に説明できなければいけない。

ロジカルシンキングもロジカルトーキングも、企画に携わる全てのビジネスマンには欠かせない必要なスキルだ。

プロの素人

プランナーという職業は、デザイナーやコピーライターにスポットライトが当たるようになったずっと後に誕生した。それまでにも企画という作業はあったのだろうが、マーケティングという科学的な手法がアメリカから入ってきて、専門家とクライアントの橋渡しが必要になった頃からプランナーという独立した職種が生まれてきた。良いものを作れば売れるという川上発想の時代が過ぎ、消費者が求めているものを探り出すという川下発想が定着するようになって、より消費者に近い企画が必要とされるようになったのだ。
商品やサービスに関してはクライアントの方がよく知っている(当たり前だが)。では何故お金を払ってまで広告代理店のような外部の人間にプロモーションを依頼するのか。それは、売り手側には見えていない買い手側=消費者視点でものを考えられるからだと考えている。プランナーは、いわば『プロの素人』でなければならない。マーケティングの手法がどんどん進化し、パワーポイントやMacの登場でプレゼンのやり方もずいぶん変わってきた。企画書の作成やプレゼンも様変わりし、コピーライターやデザイナーが片手間にやるものではなくなってきた事からプランナーという新しい専門職が必要になったのだ。
少し前まではデータを収集するだけでも膨大な作業と費用が必要だった。各市町村の統計書は役場まで足を運ばないと入手できなかったし、アンケート調査をする際も1サンプル数千円というコストがかかっていた。それが今では大半の情報はネットから入手できる。企画書の作成もプレゼンも、わざわざ専門職に頼まなくてもパワポKeynoteを使えばチョチョチョいと作れるようになった。だから今は、特別なノウハウを持っているコンサルタントを除いて、広告代理店でもプランナーという職種はほとんど見なくなっている。Macの登場で版下屋と言う業種が無くなったのと同じように、ネットの普及によってプランナーという職種は無くなってしまうだろう。ただ、プランニングやコミュニケーション能力が要らなくなったわけではない。プロの素人としての消費者目線は、これからのビジネスでも絶対に必要なスキルになってくる。
ランチェスター戦略やPDCAサイクルといった考え方は既にビジネスマンの常識になっているが、これからも続々と生まれてくるビジネス理論もチェックしておく必要がある。少なくとも日経新聞の見出しに出てくるような専門用語くらいは知っておくべきだ。ビジネスマンとしての常識と自分の仕事に関する知識を身につけるのは当然のことだが、必ずどこかで一度立ち止まって、消費者目線で自社の売物を見るクセをつけて欲しい。それこそがプランニング能力のアップにつながるポイントなのだ。
SONYウォークマンも、社長の「どこでも良い音で音楽が楽しめる小さなプレイヤーが欲しい」と言う鶴の一声から開発が始まった。それまでの技術では作れないと思われていた消費者目線でモノを考えた結果が、色々なヒット商品につながっている。「何が出来るか」ではなく「何が欲しいか」がわからなくなってきた事から日本の不況が始まっている。
これからのビジネスマンには、プランナーとしての知識とセンスが要求される。そう言う時代になったのだ。

企画書の5W1H

企画書であれCMであれ、こちらが伝えたい情報を確実に相手に伝わるように工夫する事が最も重要だ。「企画書は1枚にまとめろ」とか「最高のプレゼン」など、様々なノウハウ本があふれているが、全てにおいて「最高」と呼べる手法は残念ながら『ない』。その理由は、伝えるべきターゲットが異なるからだ。誰に対して何を伝えるかが明確になっていない企画書やプレゼン、CMなどは、どんなに内容が優れていても全く効果がない事がある。
ビジネスにおけるプレゼンでは、提案する相手が決定権を持っていないケースも発生する。プレゼンの場に出てきた担当者をスティーブジョブス並みのプレゼンテーションで感動させたとしても、キーワードしか書いていない企画書では決定権を持つ上司にうまく伝わらないことが多い。最初から決定権を持つ人が出席しない事がわかっていたなら、担当者が上司に説明しやすいような説明文を組み込んだ企画書を用意しておいた方が良い。逆に決定権を持つ人が出席する場合は、インパクト重視だ。ジョブスばりの身振り手振りを加えたプレゼンをするために、あえて企画書にはキーワードだけを記載してシンプルにまとめた方が効果がある。
企画書をこれから作ろうとする時は、通常のビジネスと同じように5W1Hが重要だ。

①いつ(When) 締切によって作成期間が決められるため、どこまで作り込むかを検討する。締切まで時間がない時にあえて分厚い資料を企画書の中に組み込んで、分量で相手を驚かせるやり方もある。

②どこで(Where) 先方は何人出席するのか、決定権を持つ人は出席するのかなどを確認する。提案する場所に余裕がある時には、担当の営業やプランナーだけでなく、上司やデザイナー、コピーライターなどプレゼンに直接関係ない人まで集めて「出席人数」でやる気をアピールする広告代理店も多いようだ。

③だれが(Who) 誰がプレゼンするのかを事前に決めておく。場合によっては担当営業の上司が挨拶した後、プランナーとデザイナー、コピーライター、営業が分担してプレゼンする事もある。プランナーひとりでも説明できるとしても、あえてデザインやコピーなどの専門家が直接話す事で説得力を増幅する事が可能だ。時にはCMに起用する予定のタレント本人を連れて来る代理店もある。他社これをやられたら、まず勝ち目はない。

④なにを(What) 当然、企画の根幹となる部分だ。相手の記憶に残りやすいよう、企画全体を一言で言い表せるようなキーワード(例えば販売個数倍増作戦とか)を作っておくのも効果的だ。「そういう手があったか」と思わせる事ができたら、半ばプレゼンは成功したと考えて良い。複数社による競合コンペになった場合にこそ「なるほど!」と思わせる目玉がポイントになってくる。

⑤なぜ(Why) 企画を依頼されたのだから書く必要はないと考える人もいるらしいが、先方の要望を再確認するためにも「なぜこの企画を立てたのか」と言う理由を明確にしておく必要がある。セールの売上を上げる企画を依頼された場合でも、客単価の引き上げを狙うのか購入頻度の増加を狙うのか、それとも客数アップを狙うのか、今回のセールでは何が一番重要なのかを明確にする事で相手が気づかないテーマが浮かび上がってくる事も多い。

⑥どのように(How) 通常は出席者全員に企画書を配ったりプロジェクターを使って説明して行く事が多いのだが、中にはプレゼンに参加した代理店の人間が歌ったり小芝居をしながらプレゼンして行く事もある。下手にこのような手法をとると反感を買う危険もあるので、こうした奇をてらうようなプレゼンは事前に先方の状況をしっかりと把握できている場合に限定した方が良い。






ゼロからイチは作れない

新しい発想とかアイデアと言うと、多くの人が「今まで誰も見たことがない」ような斬新なものを求める事が多い。発注側がそういうことが望むのはある意味仕方がない事かもしれないが、プランナーが「ゼロから何かを生み出そう」と頑張ろうとすることがあるから少し注意が必要だ。ゼロからイチを生み出す事ができれば素晴らしい事だし、それに取り込む姿勢も決して責められる事ではない。ただ、そのほとんどは「徒労」に終わるだろう。
世の中に溢れる様々なアイデアの大半は、既にあるアイデアを組み合わせたものだ。全く関係がないように思える複数のアイデアが組み合わさる事によって、時にはとんでもなく新しいものが生まれてくる。組み合わせの例として、赤鉛筆と青鉛筆をくっつけた2色鉛筆や消しゴム付き鉛筆などがよく紹介されているが、油を使わないノンフライヤーとか羽のない扇風機など視点を変えた事で生まれるアイデアもある。(どちらも海外メーカーの家電だったのが少し悲しい。日本のメーカーは、ハイビジョンや4Kテレビ、ウォークマンなど小型化や性能アップは得意だが、視点を変えるのは苦手なようだ)
ゼロから何かを生み出すようなアイデアを生み出すのは、ノーベル賞級の発明と同じくらい難しい。そう割り切るだけで肩に入ったチカラが少し軽くなる。
何百億円かかるプロジェクトも予算数十万円のキャンペーン企画も、プランナーが今まで積み上げ考えてきたものを組み合わせて作られた。その為にはどれだけ幅広い知識を持っているかが重要になる。世の中で話題になっているものにはとにかく首を突っ込んでみる。浅くて良いから、普段から網を広げておく事で面白いアイデアが生まれてくる。
プランナーはノーベル賞を狙う発明家とは違う。全打席ホームランを打つ必要はないが、フォアボールでもデットボールでも良いから必ず塁に出なければいけない。プロのプランナーは、打率はともかく出塁率だけは10割を目指す必要があるのだ。消費者目線で頭を使って行けば、必ず良いアイデアが生まれてくる。世の中のプランナーは、そうして毎日脳みそに汗をかき続けている。

フリマアプリ再び

牛(買うガール)とオオカミ(売るふ)が登場するフリマアプリのCMが新しくなった。女の子がお店で気に入った靴を試着した後、買わないまま店を出る。彼氏らしき男性が「買わないの?」と聞いたところで、「買うよ!」とフリマアプリを立ち上げるという内容になっている。

牛とオオカミが登場する段階で違和感を感じていたのだが、新CMでの女性の行動は、お店の人から見たら最悪だ。まぁ、ショールーミングという行為そのものは前からあったし責められるものではないが、「それを推奨するようなCMはどうなんだろう」とますます強い違和感を感じた。これもまた「若い人はそんなに深く考えないですよ」と言うひと言で済むことなんだろうか? CMを放送する前に必ずチェックすると思うのだが、クライアントは何も思わなかったのだろうか。それとも、これが時代の流れなんだろうか。

フリマアプリとは全く関係ない話なのだが、ネットショッピングが今のように一般的になる前、大手量販店のショッピングサイトの告知に関わったことがある。ネット担当者は、「店舗の品揃えは無限だ!」、「リアル店舗よりも経費が抑えられるので安く販売できる!」と息巻いていたが、ネットの充実に相反して、なかなか利用者が増えていかなかった。全国に広がる店舗に、本部から「もっと積極的に告知するよう」に指示が出たのだが、実際にお店に行っても作ったはずのポスターやチラシが見えにくいところにそっと掲げられているだけで、店員による声かけも行われていなかった。ネット担当は店舗の怠慢だと言っていたが、実際にリアル店舗の店長に話を聞いたところ、「自分の店の売り上げをネットに横取りされるだけ。そんな馬鹿なことはしたくない」ということだった。

各店舗の売上実績を問われる店長としては、ネットを使えば企業全体の売上が増えることがわかっていても、自店の売上がネットに奪われたのでは店長やお店の評価に関わってくる。同じ会社とはいえ、ネットは自店のライバルなのだ。そのことを理解しないで告知しようとしても、どうしても無理が生じてくる。

私が関わった流通大手は、とりあえず、ネットでの売上を一番客数と売上が多い本店に組み入れることで、本店顧客への積極的な告知を行いネットでの実績を伸ばしていった。今のようにネット販売が一般的になってからは、ネット店舗として独自の受注発送や売上管理をしているのだと思う。

流通各社でネットショッピングが当たり前になっているが、その手法は各チェーンで大きく異なっていると思う。ネットで注文して近くのコンビニに取りに行くというシステムは、リアル店舗であるコンビニ側にも何らかのメリット(売上)がバックされるはずだ。近くのお店から配達する場合なども同じだと思う。直営店でさえ自店の売上がネットに流れるのを嫌がるのだから、フランチャイズ店だったらなおさらだろう。

ネットとリアル店舗との共存は、消費者から見れば今や当然のことになっているが、その裏では様々な試行錯誤が行われている。すべて顧客視点で考えることは重要だが、ネットショッピングなどのシステムに関しては、顧客だけでなくリアル店舗の声も反映させなければ成功しない。

いつも本部の人とだけ打ち合わせをしていると、店舗が見えなくなることがある。どんなに素晴らしいと思われる施策も、店舗(現場)の協力なくして成功はない。施策を実施した後は、必ず現場の声を聞いて次の企画に反映させて行かないと、その企業とのお付き合いは難しい。

プランナーも、ドラマに出てくる刑事と一緒で「現場百回」が大切だ。

フリマアプリ

最近、買い手側が牛(買うガール)になったり売り手が狼(売るフ)になるCMをよく見かける。メルカリとか言う売ったり買ったりするスマホアプリのCMらしく、フリマアプリなんぞと言うジャンル名まで作られているようた。

CMソングはPUFFYが歌っているオリジナルソングらしいが、還暦の私から見ると、売り手が狼、買い手が牛と言う絵面を見ただけで、狼が「どこかに獲物はいないか」と狙っているネットにありがちな詐欺を疑ってしまうのだ。

おそらく、企画した人もクリエイターも、そしてクライアントも若い人たちばかりで、ネット詐欺を思い浮かべる人はいなかったのだろう。もし私がこのCM制作に絡んでいたら、即、その点を指摘する。

ただ、ターゲットも若い人たちだからそんな事は考えないですよと言われたら、そうなのかと引き下がる。ただ、私くらいの年代には大きな不安感を与えるCMである事は間違いない。それが会社にとってマイナスにはならないのかを判断するのは、クライアントの問題だ。

最近のテレビ番組やCMを見ていると、よくこんな企画で通ったなと思うようなものが増えてきた。明らかに間違っているものとか、単に年齢による感覚の違いと言うだけでは済まされないものも増えてきている。

ニュースでも人名や地名などを間違え、後から訂正するシーンもよく見かけるようになった。頑固爺さんの叱言も含まれている事に間違いはないが、チェック体制も緩んできているのではないだろうか。

CMひとつで企業イメージを大きく損なう事だってあり得るのだ。作り手側もクライアントも、もっと真剣にチェックする必要がある。

またまたソフトバンク

上戸彩が妊娠したことで、白戸家のCMシリーズも終わるのではないかと思っていたが、ようやく新しいシリーズが始まった。今回のシリーズは、犬のお父さんは残っているものの、人気アニメとタレントをごっそり起用した超豪華バージョンになっている。

人気アニメの主人公の、その後の姿を実写で描いたもので、最初のものは「MOON RIBAR篇」と言うらしいが、元セーラームーン小泉今日子、元アトムに堺雅人、元ゴルゴに小日向文世、元ケンシロウ市川海老蔵、元矢吹丈にピースの又吉直樹、元おぼっちゃまくん満島真之介、元ちびまる子ちゃん広瀬すずと、auの桃太郎・金太郎・浦島太郎・かぐや姫、そして最近は鬼(隠れキャラとして一寸法師も出ているそうだが)に比べても圧倒的に出演する人数とキャラの幅が広い。
 
企画書を想像すると、「鉄腕アトム世代のシニア層から、明日のジョーやケンシロウで育ったミドル層、ゴルゴ13好きのハードアクションファンから、おぼっちゃまくんのようなナンセンスコミック好き、そしてちびまる子のような国民的アイドルまで、あらゆる層を取り込めるCMを作りましょう。メインは元セーラームーン小泉今日子。あらゆる著名なキャラクターと出演者をズラリ揃えることで、ソフトバンクのスケール感を前面に打ち出してauに対抗しましょう!」と言う感じだろうか。
 
ただ、キャンディーズ世代(ソフトバンク的には鉄腕アトム世代)の私から見ると、あまりに登場するキャラやタレントが多過ぎて、華やかさよりも『とっ散らかっている感』の方が強く、逆に印象に残らない。漫画のキャラクターとか使わないで、小泉今日子堺雅人広瀬すず位に絞った方がインパクトの強いCMがつくれたんじゃあないかなぁ、と言う思いがある。
 
当然、プレゼンテーションの時にもそう言う質問が出たはずだが、「今はAKBなど大人数ユニットの時代ですよ」と言われたら、返す言葉がない。
 
ちなみに、人気ドラマ「あまちゃん」の小泉今日子有村架純が競合キャリアのCMに登場することになった。これでドコモが、能年玲奈(もう時期を逸したかも知れないが)や、薬師丸ひろ子が登場したら面白くなるのだけど、王者ドコモとしては、auソフトバンクと同じ土俵に乗るのは得策ではないだろう。